修正日:2013年01月30日(作成日:2013年01月22日)


第2章 理論と実施計画

 本章では、論旨を支える理論とその論旨を主張するための計画について述べる。

理論

可食化で何を表現するか

 可食化とは、何かしらの対象物を食べ物として表現することである。 本研究において、この対象物とは「ソフトウェアプログラム」を意味するが、そのプログラムのどのような性質を食べ物に変換するというのか。 つまり、可食化という手法で何を表現しようとしているのか、そのテーマを決めておかねばならない。

 今回、可食化の例題として取り扱うテーマは、以下の通りである。

プログラミング初学者が書くプログラムの良し悪し

 プログラミングを学び始めたばかりの学生たちを見て気付いたのだが、彼らには、識別子の名称(変数名・関数名)やインデント(字下げ)の扱いを蔑ろにする傾向がある。 口頭で注意するに留まらず、倣うべき実例を示すことで悪癖を正してもらおうとするのだが、その指導の意図を伝えきれないことが多い。 「言葉」で示されても、あまり見慣れていない「プログラム」で示されても、初学者は自分の習慣の悪さを認識できないようだ。 ある一定以上の長さを持つプログラムを作成し、その後もたまに修正を加えるなどという経験をすると、識別子やインデントに気を付けるようになるかもしれないが、如何せん指導の負担が大きい。 より直感的に「これは悪い習慣なのか!!」と痛感してもらえるような指導方法はないものか、と考えていた頃に、可食化の応用を思いついたのだ。 初学者のプログラムの良し悪しを食べ物で表現して、直感的にその良し悪しを伝えようとするものである。

図2-1 従来のメトリクス結果提示の例
図2-1 従来のメトリクス結果提示の例
図2-2 可食化によるメトリクス結果提示の例
図2-2 可食化によるメトリクス結果提示の例

 なお、例題を採択した経緯は「はじめに - 三つの興味(教育に関すること)」に記してある。

プログラム

スパゲッティ

写像

 ここまで、本研究における論旨の構成要素であるプログラムとスパゲッティについて述べてきた。 最後に、それらをどのように写像するか(対応付けるか)について述べ、また、写像を実現する仕組みについても説明し、 序論 - メトリクスの新しい枠組みの提案で述べた主張の論拠を示す。

計画

 上述した理論を根拠として論旨の主張を行いたい。その主張のための計画を本項に示す。

評価実験による有効性の実証

 以下は、第一の論旨(「可食化」の提案)に関する実施計画である。

 写像 - 指標同士の対応付けで示した写像関係に従って、プログラムをスパゲッティとして可食化し、食べる行為を通して直感的な理解が得られるということを実証したい。 実際には、被験者に試食及びアンケート評価実験を実施し、可視化と可食化の双方に対して「直感的な理解・認知」のしやすさを評価してもらう。 その結果を統計的に分析し、直感的な情報表現として可食化が有効かどうかを判定する。 この実験の詳細については、第4章 実験をご参照いただきたい。

枠組みによるメトリクスツールの実現

 以下は、第二の論旨(メトリクスの新しい枠組みの提案)に関する実施計画である。

 理論で示した枠組み「メトリクスグラフ」を援用した新しいメトリクスツールを開発し、当初の主張である「あらゆるメトリクスツールを実現できる」ことを実証したい。 まずは、メトリクスツールを開発するための計画として、その構成要素を明らかにし、それぞれの役割も簡単に述べておく。 ここで説明し切らない詳細については、第3章 道具と作成物をご参照いただきたい。

図2-13 メトリクスグラフの例
図2-13 メトリクスグラフの例