修正日:2013年01月21日(作成日:2012年12月14日)


要旨

 本研究は、情報表現手段としての「可食化」の提案、ならびに、ソフトウェアメトリクスのための新しい枠組みの提案を目的とするものであり、また本稿は、その研究成果についてまとめあげた論文である。

 ソフトウェアプログラムの様々な特徴を計測・評価する行為であるソフトウェアメトリクス。 その行為を自動化する道具(メトリクスツール)は既に多く出まわっており、計測対象(プログラム)の各特徴を数値やグラフとして表し、客観的かつ定量的な情報を提供してくれる。 しかしながら、ソフトウェアプログラムは複雑な構造物である。実際に計測しようにも、その指標には把握しきれないほどの種類が存在するため、具体的にどの指標を用いて何を目安に計測すれば良いのか分かりづらい面がある。

 一方、メトリクス結果を三次元グラフィクスの都市として表現する先行研究[1]が存在する。 ソフトウェアプログラムの規模や構造を上手く「可視化」するその手法は、数値で示されるよりも遥かに直感的な理解を与えてくれた。 私はこの研究に大きな感銘を受けたのだが、同時にとある疑問を抱き、その疑問に端を発し着想したのが「可食化」である。

 長年の田舎育ちのためか、都市(ビルの群)というものは私にとって身近な存在ではなく、ソフトウェアプログラムのメタファ(隠喩表現)としての都市にも、あまり身近さを感じなかった。 故に「どうして都市として表現したのだろうか。もっと分かりやすい別のメタファはないものか...」という疑問を抱くことになる。 その解を求めるべく幾つかの連想を経た後、かの「スパゲッティプログラム」という言葉に辿り着き、メタファとしての「スパゲッティ」ひいては「情報の可食化」を考え始めたのであった。 数値による可視化に満足せずグラフィクスによる可視化が登場したのであれば、食べ物による可食化が登場することにも何ら不思議はないはずである。

 そこで、本研究では「スパゲッティを題材としたソフトウェアプログラムの可食化」を具体例として示し、その有効性を実証することによって、新しい情報表現手段としての「可食化」を提案する。 また、その実現のために新しくソフトウェアメトリクスツールを用意したが、これは既存のツールとは異なり、より利用者の要求に即した情報提供を行うための特徴を備えている。 本稿ではその特徴を、ソフトウェアメトリクスのための新しい枠組みとして抽象化し、別途提案することにする。